溺愛彼氏の苦悩 【ぎじプリ】
「それに俺は今日まだお前を抱きしめてもない」
ヤキモチを滲ませる彼の声が珍しく寂しさを含み
何だか胸が苦しくなった。
「そんなことないよ、私だって―――」
「嘘吐き
楽しそうな声してただろ」
私が話すのを遮り、聞く耳持たずの彼はわたしの言葉すら蓋をしようとする。
「くそっ、ムカつくんだよ!
あいつ、俺がおまえの事を好きなのを知って
余計にちょっかいをかけてるんだ」
その声は色濃く苦渋が含んでいる。
「チョッカイだなんで大袈裟よ
仕事だし、それに普通に会話していただけ
初めて会った時にあなたに一目ぼれをしたのはわたしの方よ
覚えてるよね?」
「今は俺の方が好きだ
だが今の八方美人のお前は大嫌いだ」
彼の言葉が氷の刃物にように冷たく突き刺さる。
「八方美人って…そんなに私の事信用ない?
いいわよ
それならずっと怒っていなさいよっ
もうアナタのことなんか知らない! 大っ嫌い!」
彼以外にこんなに愛情を持って接していないのに…
潤んだ目に涙をためながら
彼に肩に手を置こうとしていた私はその手を引き
思いもしない失言を投げつけると
逃げるように彼の傍から逃げ出した。