史上最悪!?な彼と溺甘オフィス
「悪かったな、無理やり引き止めて」


長い長い情事の後で、霧島さんはバツが悪そうに呟いた。


「大丈夫ですよ」

明日早いなんて嘘なので とは言わないでおいた。

霧島さんが乱れた私の髪の毛をそっと直してくれる。
カーテンから漏れる月明かりだけの薄暗い部屋で、霧島さんの引き締まった身体が妙に色っぽく見えて私は思わず顔を背ける。


「綺麗だな」

「えっ!?」

考えていたことを見透かされたのかと思った。

「瑠花の髪。 細くて、柔らかくて」

霧島さんは私の髪の毛を一房、手に取るとまじまじと見つめた。


「・・何かあったんですか?
今日、霧島さんらしくないですよ」


ずっと疑問だったことをようやく口にした。


霧島さんは私の髪の毛を見つめたまま、表情を変えずに言った。


「命日なんだ、今日」


メイニチ・・・

あまりにも予想外の単語すぎて、すぐには漢字が浮かばなかった。


「母親の命日なんだ」

霧島さんが静かに言葉を重ねた。


お母さんの命日。


そうか、霧島さんが今日はどこか淋しげに見えた理由はそういうことだったんだ。


「ご病気だったんですか」

霧島さんは会社でもプライベートな事は一切話さない人だ。
その霧島さんがこういう話をするって事は誰かに聞いて欲しいんだろうと私は思った。

「いや、自殺。 俺が14の時だから、もう10年以上昔の話だ。

けど、情けないことにいまだにこの日だけは一人でいたくないんだよ」
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