七色の空
チャプター52「水色の作業服」
福生が映写室で監督達と映画のラッシュを観ている。暗闇の中で、スクリーンの明かりで福生の顔が浮かび上がる。これが幸せな人間の表情なのだろうか…悲しくなるくらい、満たされた顔をしている。映画の出来に満足しているのか?自分の脚本が映画化されている事実に酔っているのか? 映写室のあるスタジオの待合室では、林檎が煙草を吸いながら福生が出てくるのを待っている。林檎は映画が完成するまでは観ない、その気持ちは今も変わらないようだ。
用務員のオバサンが灰皿を交換しに来る。
オバサン「失礼します」 オバサンは林檎に頭を下げながら灰皿に手を伸ばす。しばらく林檎はオバサンの作業を眺めている。
林檎「ここでのお仕事ながいんですか?」
オバサン「はい。もぉ10年目になります」
林檎「ここいぃトコですね」
オバサン「さようですね。私、よく存じあげないで失礼ですが、女優さんでらっしゃいますか?」林檎「見えます?(笑)」オバサン「えぇ綺麗でいらっしゃいますね」
林檎「…(笑) 彼が今、映画つくってて…ただの付き添いなんです」
オバサン「映画の人は綺麗な方連れてらっしゃることが多いですね、羨ましい(笑)」
林檎「…(笑)お母さんもお綺麗ですよ」
オバサン「やですよぉ(笑)」
林檎はもう一本煙草に火をつけようとしたが、何となく、指をかけた煙草をケースに戻す。
林檎はオバサンの左手の薬指にリングを確認すると、
林檎「結婚されて何年目になるんですか?」
オバサン「…」
林檎「あ、すいません初対面で失礼ですね」
オバサンは向こうを指差し、
オバサン「あっちで掃除してるのが主人なんですよ(笑)」
林檎はオバサンが指差した方を見る。
水色の作業服を着た、少し腰の曲がった小柄なオジサンが床を研いている。
林檎「素敵な旦那さん」オバサン「素敵だなんて役に立たないお荷物ですよ」
林檎「(笑)」
オバサン「連れ添ってもぉ30年目です。2年前に退職して、始めは嫌がってたんですけどね、ここで一緒に働いてるんですよ、お恥ずかしい(笑)」林檎「映画の為に頑張って下さいね」
オバサン「映画のためだなんて、恐縮です」
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