七色の空
チャプター64
「言葉の数だけ」

林檎が見慣れた道の向こうには実家がある。そこで福生が眠っている。実家に向かう道中、こんな気持ちになるのは、勿論初めてのことだ。福生が林檎の実家にいるということは、林檎に都合の良い想像をさせるばかりであった。ハッキリと福生の意図を掴むことは出来ずにいたが、少なくとも福生が実家にいるのは、やはり福生が愛の為に病院を脱け出した証。林檎は瀕死の福生を抱き締めて、愛のパワーで蘇らせる自信すら湧いてくる。
勇気や希望は、無根拠や思い込みであった方が美しい。裏付けがあっては輝かない。
忘れてしまった夢を思い起こす 語れる程の勇気を忘れてしまった頃に あの頃風を追い越しながら 夢中に気付くこともなかった稲穂は 今でも風にそよがれる 輝きを取り戻せない時間の蓄積を 君はなぜだろう こんなにも当たり前に輝いてみせる
福生が林檎の実家に向かう夜行バスの車中で詠んだ詩だ。誰に向けた、誰の為の詩なのか?
 車を飛び出した林檎が、早朝実家の門をくぐる。
 風がなくても、人が走れば髪はなびく。風を待つか、風になるか、人を好きになるとはそういう事かも知れない。
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