七色の空
チャプター67
「サメに喰われたあの娘」
林檎は福生を連れて、思い出の場所へ…そこは、岩肌の剥き出しになった絶壁の下。所々、海面から顔を出している岩肌は、波が打ち付けるごとに姿を隠す。崖の下部は波で浸食され窪みになっている。
ここは、林檎が田舎で生活をしていた頃の大事な場所だ。崖には小さな洞穴があり、そこには沢山の思い出が詰まっている。
いつか温暖化で水面が上昇すれば、その時には海に呑み込まれる洞穴は、この先、それほど長くは残っていられないだろう。
最後にここを訪れてから、10年以上が経過した。たまの帰省でも、訪れることのなかった洞穴は、家から歩けば30分程度の距離である。
林檎は過去を振り返らない点に於いては、福生と共通している。自分にとって大事な場所だと肯定はしていても、だからこそ、訪れるべきではないと考えていた。田舎の学生時代の友人とも音信不通、同窓会にも顔を出したことはない。その辺を歩いていれば、馴染みの顔を容易に見付けることが出来る、そんな田舎が林檎の性には合わなかった。帰省はあくまで母親に会う為のものだ。母親が死んでしまえば、この土地を訪れることも、きっとなくなってしまうだろう。
福生を連れてココへ来たのは、林檎が、ずっと目を背けて来たものに、少し素直になれたから。
ノスタルジーが、林檎を少し大人にしたからだ。
福生が松葉杖で、海面から顔を出す岩山から岩山へ、器用に跳び移ったりしているのを林檎が眺めている。
林檎「福生〜危ないよ〜」 福生は笑いながらおどけて見せる。
福生は病院にいた時より、幾分元気そうに見える。大好きな夜行バスに乗り、昨日は林檎の母親の手料理を食べ、ぐっすり眠ったので、気分が良いのだろう。 穏やかな波が、岩の上の福生の足下を濡らす。福生はそれを感じないが、足下に波が押し寄せる様は好きだった。
福生が別の岩に跳び移ろうとした、次の瞬間、
林檎「!?」
岩の上から福生の姿が消えた!!
林檎は自動反射的、もしくは暗黙的に地面蹴っていた。
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