幼馴染みの期限
「傘忘れちゃったよ……」


そんな小さな事にも、泣きそうになってしまう。


クラフトバックの持ち手をギュッと握りしめながら、溢れそうな涙を唇を噛みしめて何とか堪えた。


ポロッと涙が落ちてしまわないように、うつむいたままで足早に歩き出す。


そして、デイの敷地から一歩外に踏み出した瞬間にーー



「渡瀬」



ふいに、名前を呼ばれた。



真横から掛けられた声に、真っ直ぐに踏み出そうとしていた足が思わず止まる。



「……向井くん」




そろそろと顔を横に向けると、デイの入口から少し離れた電柱の側に、向井くんが立っていた。



「……LINE見てないよね」



近づいて来る彼の傘からパサパサと乾いたような音がして、雪が固まった状態で滑り落ちる。


だいぶ待たせてしまったようだ。慌ててコートのポケットからスマホを取り出して、メッセージを確認した。



ー『何も約束してないけど、今日会えないかな』



そんな始まりのメッセージが最初に入っていたのが、ちょうどお昼過ぎ。


今朝からの調子の悪さも響いてか、入浴介助が長引いてあやうく昼食の時間にかかりそうになり、宏美さんと慌てて最後の利用者さんの服を着せたり、髪を乾かしたり……浴室の片付けをしたり、お昼までのパートさんに帰ってもらったりして……


そんな感じでバタバタしていたから、スマホなんて全く見る余裕が無かった。


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