おいしい時間 しあわせのカタチ
校長先生もうれしそうだ。
無理もあるまい。学校の売りと言っていい野球部が再スタートを切るのだ。
関係者にとっては吉祥以外のなにものでもない。
校長先生が彼らをここへ連れてきたのも、おそらく半分は激励なのだろうが、あとの半分は二度と晩夏のような失態のないようにという念押し――懇願? なのだろうと察する。
しかし、今のふたりを見る限り、その心配は無用に思えた。
「今日、コーチはお見えにならないんですね」
「おや、一緒のほうがよかったかい?」
にやにやと訊ねる校長先生を笑顔で受け流す。校長は、酒は好きだがあまり強くないのだ。
「そりゃあそのほうが”これ”が回りますもの」
人差し指と親指で作った丸を上下逆さに示して見せると、そっちかい、と天井を仰がれた。
「やっぱり平日はお忙しいんですね――って、それは先生方もそうですよね。すいません」
ちろ、と舌先を覗かせて、気を取り直すのにお猪口を口に運んだとき、店の前で、なにやら白い影と黒い影が折り重なって動いているのが見えた。
ついに来たのかも知れない。
影が見えなくなったのを確認すると、佐希子はゴンさんに耳打ちして厨房に向かった。
「あれ、佐希子さん? 注文ですか」
「ううん、そうじゃないんだけど。今からちょっと丹後さんに頼みたいことがあって」
きょとんとする丹後さんの肩越しに、佐希子の家の居間に明かりが灯るのをたしかに見た。