おいしい時間 しあわせのカタチ
「指導される側としちゃあ、どっちのほうがいい?」
「ええ? そうですね……、そりゃあ知識とか教え方とか勘の鋭さで言ったら土井コーチですけど、でも、俺は別にどっちでもいいかもしれないです。ああっ、ていうのはなにも関係ないって意味じゃなくて、おふたりとも部を盛り立ててくれようとしてるのは一緒だし、それに俺、今はなにより元のメンバーで練習できることがうれしいから、誰に指導されてもなんでも頑張れる気がするんです」
地平線のようにどこまでも真っ直ぐなことばと眼差しが胸に染みて、そして、酒が染みる……。
日本酒の通り過ぎた喉がいつになく熱かった。
「いい友だちと、仲間を持ちましたね」
「――はい」
あらためて、感極まったように頷いてみせる早見くんの後ろから、不自然に鼻をつまんだまま妙に気取った足取りで一之瀬くんが戻ってきた。
早見くんに出したものと同じお茶を一之瀬くんにも出したとき、今度は、身体をふるわせながら監督さんが戻ってきた。
その場をゴンさんに任せ、佐希子は裏メニューの補充と根岸くんたちの様子を探るため、家のほうに足を向けた。
声はしないが、障子越しに人影は見える。
「あ、佐希子さん。すいません長々と……。お店のほうは大丈夫ですか」