おいしい時間 しあわせのカタチ
「それは……ッ」
なおも食い下がろうとする揺らぎ始めたポーカーフェイスに微笑みかけて、佐希子は残りのお酒を流し込んだ。
(もちろんわたしにだって、そんなふうに思わなかった時期がないわけではないけど)
店のほうから聞こえてくる絶え間ない朗笑に耳をすませる。
欠けたピースを埋めてくれるものが、必ずしも、早見くんと一之瀬くんのように"同じもの"だとは限らないことを知った。
「運命に委ねるもの――わたしはそう思ってる」
「運命……、ですか」
「それに、わたしが、どんな家庭を築きたいかもわからない。もちろんそれは、わたしにそういう相手がいないことも大いに関係してるんでしょうけど」
「ちなみに、過去にいたことはあるんですか?」
根岸くんが興味深そうに聞いてきた。
「――いなかったことはない、かな。でも、お店と同じだけの熱量をその人に捧げられるとは思わなかった。相手のあることだから、中途半端じゃあいけないと思ったの」
「そうですか……」
納得したように頷きながら、さりげなく根岸くんは大上さんの表情を窺ったが、大上さんはグラスに口をつけたまま、まんじりともせずに押し黙る。
佐希子は空のお猪口を手に立ち上がり、
「じゃあわたしは戻ります。ごちそうさま。大上さん、どうぞゆっくりしていってね」
「――はい。ありがとうございます」