おいしい時間 しあわせのカタチ

「ああ、そうなんですよね。まあだから安いんですけど。俺もたまに利用しますよ」

「おお兄ちゃん、若いのに倹約的だね」

「佐希子さん、ちょっと味を見てください」


 根岸くんに呼ばれて厨房に向かえば、ふっくらしっとりと蒸しあがったシュウマイがもくもくと湯気を上げてふたりの間に壁を作った。

 今日のメニューにはないものだ。誰かに無理な注文をされたのだろうかと、別段驚くことでもないけれど。

 ひき肉の濃厚さと玉ねぎの甘み、その他さまざまな香辛料が混ざり合って食欲をそそりながら、過不足のない昔ながらのにおいにほっこりする。

 その瞬間、加速度的に眠気が増して、佐希子は危うく意識を手放しかけるところだった。
 

「だいじょうぶですか?」

「え、ええ。大丈夫。慣れるまでの辛抱ね、おほほ。じゃあ、いただきます」


 箸でつかんでためつすがめつした後、ふうふうと息を吹きかけてまず半分。

 溢れる肉汁と、容赦なく噴出す湯気に悪戦苦闘しながら咀嚼して、佐希子は中身の安定した味わいもさることながら、皮の滑らかさと、薄いながらももちもちとした弾力に舌を巻いた。


「なかなか美味いと思いませんか? 俺も今さっき食わせてもらって驚いたんですけど」

「うん、とっても美味しいと思う。この皮って、もしかして手作り?」

「はい、もちろん。俺、餃子とシュウマイとワンタンだけは全部皮から作るんです。ゆずれないこだわりって言うか。――じゃ、ま、佐希子さんの許可が出たなら、これ、お客さんに持ってってもらえますか?」

「はいはい」とお客さんの名前を頭に入れて、「あの人はときどきこういう無茶を言ってくるから怖いわ」

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