おいしい時間 しあわせのカタチ
いきなり割って入ってきた丹後さんの手には今日の夕刊が握られていた。
どういうわけか、心なし、顔に血の気がない。
「なんだ、なにか載ってんのか?」
奪うようにゴンさんが夕刊を丹後さんの手から抜き取って、皆に見せやすいようカウンターに広げた。
「ここです。この、プリンスホテル織部のことですよ、多分。若草町の店じゃなく」
「プリンスホテル織部って、そこの通りをずっと北に行ったところにある老舗ホテルのことですよね。そこにその吉川さんとなんの関係が?」
根岸くんが聞くと、丹後さんはにわかに返答に詰まった後、
「――吉川先輩の店の支店が、今、プリンスホテルに入ってるんです。和食部門の担当で」
え、と丹後さんを除く三人が声を揃え、一斉に新聞を覗き込む。
その内容は――
「プリンスホテル織部、経営権を譲渡して以降も営業利益は連続の赤字……。新たな経営者の掲げる経費削減を第一とした性急な改革のしわ寄せが料理の質を落としていると……って、えっ、まずいんじゃないですかこれ。もしホテル全体になにかあったらその吉川さんだってただじゃ済まないかもしれないじゃないっすか」
「ばか護、そんな縁起でもねぇこと言うんじゃねぇよ。そんな簡単にホテルが潰れるか」
「すんません……。でも危ないから売りに出したわけだし、最近そういうの、聞かない話じゃないし」
「吉川さん、ホテルの方にもお店を出していたのね。知らなかったわ。丹後さんは聞いていたの?」