甘やかす彼【ぎじプリ】
「顔、恐いぞ」
「ごめん。さっき言われたこと思い返したら、ものすごく頭にきて」
「そうだよ。お前は怒ればいいんだよ。好きなだけ言いたいことを言え。俺しか聞いていないんだから」
 その言葉で、インタビューの時に堪えていた感情がわっと溢れた。

「悪かったわね、仕事と結婚、天秤にかけてて。

 雑誌の編集者になるのが高校生のころからの夢だったんだから。そのために大学受験も頑張って、無理だって言われた大学に合格したのよ。そのあとも、自分の視野を広げるために、いろんな職種のバイトをして、海外にも行って、これでもかってほど本も新聞も読んだ。苦しい就職活動にもめげず、雑誌編集者になったの。

 編集になっても、自分の無力さを痛感して、凹んで、一人で泣いて、歯を食いしばって、仕事に食らいついてきた。そのなかで関わってきた雑誌は私の宝物よ。

 それだけ頑張ってきたことを、あっさり捨てられない。私が生きてきた時間の半分以上を自分の夢に使ってきたんだから。

 それになに? にわかファンのなにが悪いのよ。作家だって、芸術家だって、この世の中にあるほとんどの職業に携わっている人は、みんな最初はにわかファン。そういう人が成長して、学んで、プロになるの。

 いつか自分のにわかファンが、あんたなんかよりもずっといい作品を作るようになって、あんたの上をいくのよ。そのとき、自分の言った言葉に後悔し、押しつぶされればいい」

 一気にまくし立てると、すごく落ち着いた。
 コーヒーを飲みほして、今度は深く息を吸った。ため息にならないように、ゆっくりと息を吐きだす。
 私が悪態をついている間、彼は黙って聞いていてくれた。彼はそういうタイプだ。

「すっきりしたか?」
「うん」
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