wish
部屋のなかに、掛け時計の、カチカチ、という音が響く。

いつもは気にならない音が聞こえてくるくらいに、張り詰めた空気が漂っていた。


「突然じゃない。ずっと、聞きたかったんだ」


昇は先を促すように、真面目な顔で、母を見つめ返した。

その視線に先に堪えきれなくなったのは母で、顔を背け、自分の手元に視線を落とした。


「恨んでないわよ。だってお父さんは立派にがんばってたじゃない」

「でも…」

「昇は、お父さんのこと恨んでるの?」

「……」


言葉には出さずに、小さく首を横にふる。


昇も、父を恨んでいるわけではないのだ。

ただ、何もできない自分が悔しかったから。


聞いてから少し後悔した。


もし、「恨んでいる」と母が言ってくれたら、きっと楽になれたのだ。

でも、そうではないから、こんなにも苦しい。

昇はただうつむいて、


「ごめん」


とつぶやいた。

時計の音が、まだ耳にこびりついて離れない。



< 112 / 218 >

この作品をシェア

pagetop