奪うなら心を全部受け止めて


「佳織ちゃん、優朔は、…いや、何でもない」

「気にしないでください。
もし今日一緒に居て…、帰って行くことに出くわさなかっただけでも良くないですか?そうなるはずだった現実がなかった訳ですから。
起きる寂しさから、一つ免れた感じじゃないですか。
一緒に居て、呼ばれて帰ってしまうのを見送るよりマシです。
あ、スイーツは私の好みでチーズケーキなんですけど、大丈夫ですか?」

「…ああ、大丈夫だよ。チーズケーキは好きだ」

「本当に?…優朔のお父様も好きなんですよ。
あの時…私に合わせてくれたのかも知れないけど」

「いや、本当に好きですよ。
チーズケーキだけは食べるらしいから」

「…そうおっしゃってましたね」


「佳織ちゃん、泊まっていく?」

「ぇえ?」

「だって、今日はここに居る日だろ?
あ、誤解のないように言っておくけど、下心も何もないから、安心して?
DVDも有るし。
俺もゆったりした気分で過ごせる時間がある日は貴重だから、…一緒に観よう?
映画館にでも出掛けたつもりでさ?
そうだ、観る時は少し暗くしちゃおうか。あー、佳織ちゃんはハードボイルドは平気かな?」

「能さん…」

「そうと決まったらデザートはあっちで食べよう。DVD観ながら、ね?」

「…はい」

「あ、俺、先、風呂入って来ていいかな?そのつもりで準備してたし。いい?」

「はい。どうぞ、どうぞ」

「佳織ちゃんは?お風呂、済んでるの?」

「あ、…まだです」

「じゃあ、一緒に入る?」

「へっ?…。えーっ!?な、な、何、言っちゃってるんですか…」

「アハハッ。冗談に決まってるだろ?
そんなに露骨に驚かなくても。そんな事しないよ」

「もう。…解ってますけど…もう」

「じゃ、悪いけど俺入って来るね」

「はい、いってらっしゃいませ」

「…やっとちゃんと笑ったね」

「え?…能さん。…有難うございます」

「何が?
なんの、なんの。あわよくば…実はセクハラ兄ちゃんの下心?みたいな事思ってるかもよ?」

「えー、もう。能さん。そんな事ないです、能さんは」

「…どうだかな?風呂行くよ?一緒にどう?」

「またもう!能さん」

「アハハッ。もう言わないから許して。アハハ」

「もう、早く入ってください」

「はいはい」

有難うございます、能さん。
私はDVD観てようかな。
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