奪うなら心を全部受け止めて

・佳織32歳

優朔と部屋で会って朝まで居られる、そんなパターンにどっぷりと浸っていた。
怖いくらい幸せな時間を何年も過ごした。

きっと…幸せ過ぎてバチが当たったんだ。
奥様が妊娠した。…優朔の子供ではない。本当だろうかという思いはどこかで燻っていた。

そう聞いてから、日々、刻々と経過していく。当然お腹の中では赤ちゃんが育っていく。
同時に…優朔と一緒に居る時間に、昔のように連絡が入るようになった。
解っている。多分、悪阻がきつくて辛い時期になったのだ。
初めての妊娠。不安もある。一人は心細い事だろう。

お屋敷にお手伝いさんは沢山居るようだが、…やはり、辛いとなると、“夫"は優先的に頼りたい相手。そんな存在。
優朔は優しい夫。
変わらず良き夫だった。


長く過ごせる時間に慣れ過ぎていた。
それが当たり前のようになり、私が甘えていただけだ。
…昔に戻るだけじゃないの。
仕事じゃないのに、お腹が大きくなっていく奥様を一人置いて留守がちにする事は出来ない。
夫なら仕事が終われば心配して家に帰るのは当たり前。
…優朔の子供じゃないなんて、お手伝いさんは知らないはず。周りの人間が作り出す…そんな柔らかい空気が包む、おめでたいムードの中、優朔だって渋い顔をしているはずもない。

初産を気遣う優しい夫…。
演技でも何でもなく、優朔は普通にそうしている事だろう。

識子、大丈夫か?
食べたい物はないか、って。
悪阻で辛い奥様の背中を優しく摩っていることだろう。

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