奪うなら心を全部受け止めて
映画館の席。俺が真ん中になる。そうなるよな、当然。
離れて座るのもおかしな事だし。
「なあ、千。これ、...俺...」
「...ん、ああ」
もう始まる。右に座るショウがパンフレットに目を通し、聞きとれる最少のトーンで囁いた。
「俺、今、一緒に映画観るって言った事、本気で悪い事したと思ってる。最大のミスを犯してしまった。すまん」
“君がすべて"
恋人がいる女性を好きになり、思いを告げられずただ見守り続ける。思いは中々伝わらない。そして...。
切ないラブストーリーだ。
「別に。...何がだ」
「だって、これは...まさに」
「いいから、黙れ。偶然だ。前回のお詫びで観ようとしたら、ラブストーリーはこれしか上映してなかったんだ。たまたまだ。こんなの、女子の好きな、よくあるパターンのラブストーリーだ、こうでもしなきゃ、切ない話はつくれないだろ。勝手な想像で当て嵌めんな」
「まあ、そう言ってしまえばそうなんだけど。もろ被りじゃないか...」
「だから、...静かにしろ。周りに迷惑だし...。佳織に聞こえる。さっきから何でお前とゴニョゴニョ話さないといけないんだ。顔、近い...近すぎだ」
「近くないと声がでかくなるだろ?...暗くてよく解んないから大丈夫」
「おま...そういう問題じゃない」
ショウがツンツンする。
「ぁあ?」
「シーッ!見てみろよ」
指されるがまま見れば、佳織がスースー寝ていた。
確かに、この程よい涼しさは気持ちいい。でもな...。寝ちまったか...。
隣のおじさんに寄り掛かりそうになっていたから、慌てて俺の方に頭をもたれ掛けさせた。
何だよ...何すんだよ、お兄ちゃん、て。間違いなく、おじさんはそんな風に残念がっていた。