奪うなら心を全部受け止めて
・優朔27歳
【控え室】
コンコンコン。
「...はい」
「失礼します」
カチャ。...ガチャリ。
「何だ...、能か...」
「お生憎さま。誰だと思った?...新郎様はお疲れのようで。
随分と複雑な顔付きしてるな。これが晴れの日の男の顔とは、とても思えないな。
昨日の今日だ。いや、今日の今日だよな?厳密には。
全く...ギリギリまで居やがって。...気持ちはよく解るが。
迎えに行く俺の身にもなってくれよ。時間押してるって言うのに、…待たせやがって。
疲れた身体は充実していて、心は疲労困憊か...。そんなところだな?」
「おい...もうそれ以上言うなよ。押したのは悪いと思ってるけど、察してくれてるんだろ?
それに誰が聞いているか解らない。式場の人間だって、口に戸は立てられないじゃないか」
「大丈夫だ。内鍵かけたし、両隣は使用しないようにしてある」
「流石だな。披露宴になったら幸せな新郎の顔になるから、今はそっとしておいてくれないか...。
正直、式だけでもう疲れたよ。能だから言うけどな。...情けない。すまん」
「馬鹿...、解ってるよ。
昨日今日で気持ちにギャップが有りすぎるんだよ。だから、式の日より、もっと前に早く帰って来ておけば良かったんだ。休めないだろうが。だけど、...そうか」
「...ああ。日にちに余裕を持てば持っただけ佳織と居たくなる。だから、ギリギリ前日の一日だけ居られるようにしたんだ。...わざとそうしたんだよ」
「ああ、そうだな。苦しい葛藤だな。
居られるだけ居たいのに、そうする事が辛くなるなんてな。しかし、蒸し返す訳じゃないけど、式は辛そうだったな。平気そうにはしてたけど、俺には解った。
指輪の交換にしろ、誓いのキス...」
「言わないでくれ。...はぁ、言わないでくれないか。思い出したくない。悪いと思ってるんだ」
「佳織ちゃんにか?」
「二人共にだ。...佳織も、識子さんにもだよ」