奪うなら心を全部受け止めて


「相変わらずだな。気持ちは解るけど、仕方ないだろ。俺は善人ぶるつもりも、悪人面するつもりもないけど。
これは割り切った結婚だ。識子さんにはあまり感情を持たない方がいい。
人として、きちんとしようとする優朔の気持ちは解ってるつもりだ。だけど好きな人は佳織ちゃんだけだろ?だったら心の全ては佳織ちゃんで一杯にしろよ。
関係性は許されてる、優遇されてるといっても、あの子は優朔と過ごせる時間が極端にないんだ。時間も生活も満足に共有出来ない。優朔の基本は結婚、その相手との暮らしな訳だし。
世間をまだよく知らない内から、我慢しないといられないってことを植え付けられたようなものだ。
識子さんは初めから何もなくていい結婚なんだ。そうだろ?大事なのは誰だ?何だ?
俺が一々口出す事じゃないけど、決めたんだから、よく解ってるよな?そこんとこ。
誰にでもいい人でいる必要はないと思うんだ。辛くなるだろ?みんなが。
大事な人にだけ優朔がどんなやつか、解って貰っていればいいと俺は思う。
悪人になれないなら、悪人を演じてみろよ。そんな時も必要だ。
大事にするのは佳織ちゃんだろ?」

「…佳織にさ、直接じゃなく言ったんだ。俺の独り言だ、呟いた。
眠ってる佳織の指に指輪を嵌めて、俺と佳織のリングはこの一つだけだってね。
佳織に嵌めたリングが二人分の思いの篭ったリングのつもりだ。
それと、俺のこの指に嵌める指輪は、一日だけのモノだから許して欲しいってね。披露宴が終わったら外す。もう、指輪を嵌める事はない」

「はぁ。眠ってる時に嵌めたのは、まあいいとしても、ちゃんと言ってやらなきゃ駄目だ、その言葉通り、起きてる時に。聞いてると知らないでは全然違う。
目が覚めたら確かに指にリングはあるだろうよ。だけどそこにお前の言葉も気持ちも明確にはないだろ?
物が物だ、察して何となく伝わるだろうけど。
解っていても、言って欲しい言葉ってあるだろ?凄く大事な言葉だ。女性はそれを凄くほしいものなんだ。
何もかも一つ一つが貴重なんだ。
大事にしてやれよ。次、会ったら、言ってやって欲しい」

「能は、本当、兄貴だよな。俺にもだけど、佳織にも。面倒見のいい兄貴だよ。解ってる。必ず話すから」

「ああ。抱き着いて喜ぶだろうな。いや、あの子だから、きっと泣いてしまうだろう、色々考えてな...優朔と同じだよ。
自分が幸せだと感じたら、これはいいんだろうかって思ってしまうんだ。
幸せである事が心配で不安になるんだ。
優朔と佳織ちゃんの関係がそうさせるんだ、仕方ないけどな。
だから、幸せだって思っていいんだって、言ってやってくれよ?それでいいんだって」

「...能。能は...」
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