奪うなら心を全部受け止めて


・千景37歳

金曜日。

...ここだな。
最早、秘書ではない。逸脱の域だと思う。個人的感情に負けてしまった。

会ってみたくなった。どんな男なのかずっと興味があった。俺個人の長年の思いだ。TAKAGIの関係者として会う訳にはいかない。

長く見守れる精神の持ち主。...一体どんな気持ちで接して来たのか。
知りたくなった。


『BAR Crash love…』か。
なんだか心惹かれる店名だ。俺の心の奥にあるモノに...触れるな...。

来たところで約束している訳ではない。
会えるかどうかも解らない。

仲城千景という男。一体どんな男なんだろう。


カラン…。

「いらっしゃいませ。お一人様でしょうか?
どうぞ、こちらへ」

カウンターを勧められた。

「シェリートニック、いいかな?」

取り敢えず、今夜は軽く飲んで帰ろう。まず店は確認出来た。

「畏まりました」


「どうぞ。よろしければこちらも」

ブラックチョコとピスタチオ...。

「有難う。頂きます」

「お客様、初めてのご来店ですよね?」

マスターかな、バーテンかな、グラスを拭きながら静かに声を掛けられた。
甘いマスクのいい男だ。雰囲気もいい。
彼目当ての常連は多そうだな。

「ええ」

「立ち入った事をお伺い致しますが、待ち合わせか何かでしょうか?」

「待ち合わせか...。会いたいと思って来てみましたが、約束をしている訳ではありません。運があることを祈るのみです」

「そうでしたか。それだけお伺いすると、なんだかロマンティックな話のようですが」

首を振る。

「会えるまでは少し足繋く通うかも知れません。いつがいいのか、何曜なら会えるのかも解りませんから...勘が頼りです。
引き合う何かがあれば会えるでしょう」

引き合う何か、か...。やっぱり、会いたいのは女性なんだな。

「...格好いいですね」

「ん?」

「あ、すみません。貴方のように格好いい方を知っているものですから。失礼致しました。軽口をきいてしまいました」

「いや、大丈夫だよ。フ...。格好良くはないけど、有難う」

いや...渋くて、格好いい。こういう感じに歳を重ねたいな。
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