奪うなら心を全部受け止めて
私には、とっくに刷り込まれていたんだ。
あの時、恥ずかしくて俯いた行為も。
バイバイって手を振ってくれたから、恥ずかしくてもバイバイって手を振れた事も。
その時のドキドキと一緒に、私の心の奥に居続けていたんだ。
入学式の日、偶然見つけてしまった綺麗な顔を無意識に見てしまった。
一瞬の胸の痛み。それがなんだか直ぐには解らなかった。も一度見たくて無意識に探した。そしてジッと見つめた。
綺麗な顔…。
立ち上がると背も高かった。
ドキドキした。キュッと胸が苦しくてズキッと痛くなった。
見つめ続けてしまった。
……この人…どこかで会った事がある。
そんな印象がずっとついて回った。囚われていた。霞がかかったみたいにそれがどこだったのか、いつのことだったのかぼやけたままだぅた。
何かが少しずつ解けていった。…会った事がある。…どこでだっけ…いつ?まるで記憶喪失だ。
あ…ぁあ。それが一気に甦った。
お墓参りで会った男の子に似ているんだ。
そう。
横向きになった傘を立ててくれて握らせてくれた男の子。
キュンとした。それがなんだか解らなかった。懐かしさ?
気づかず心臓が勝手にドキドキする事が好きだという気持ちだと知らなかった頃。
バイバイと笑う顔はお人形のように綺麗で格好良かった。
好きになっていた。
しばらくその男の子の事が忘れられなかった。
また会えないかな〜って、どこかでずっと思っていた。おばあちゃんのお墓に行けば会えるんだと思っていた。でも、それはタイミングの問題でいつも会えるものではないと徐々に知った。
私の心は、格好いいお兄ちゃん、千景で一杯だった。
幼い私の心は、千景に奪われていたんだ。