奪うなら心を全部受け止めて
「優朔、私、謝らないといけない事があるの」
そう言って、佳織はソファーから立ち上がり、いきなり床に伏せた。土下座したのだ。
土下座なんて余程のことだ。心臓が冷えた。
「…おい、…ちょっ、どうしたんだ…何してる佳織。一体どうしたんだ」
何があったというんだ。聞くのが恐いくらいだ。
「ごめんなさい優朔。私…ごめんなさい。ごめんなさい。私…」
「…どうした…」
中々核心に触れない。そんなに言い辛いことなのか、一体なんだ。
「私………、優朔以外の人に抱かれてしまいました。ごめんなさい…ごめんなさい、ごめんなさい」
なに?なんだと…聞き間違いか…。
「…佳織。…。ふぅ。
顔をあげてくれ。頼む。とにかく、いいから顔をあげてくれ」
首を振る。何度も振る。
「謝っても許されない事をしてしまったの。
ごめんなさい、ごめんなさい」
優朔がひざまずいて佳織を抱き上げようとするが、身を硬くして首を振り更に伏せた。
「ごめんなさい。ごめんなさい…ごめんなさい」
「…佳織。そうなる…何かがあったんだろ?…何かないとそんな事にはならない。
…話せるか?話せるなら訳を言って欲しい。
謝られても…したという事実しか解らない。
さあ、とにかく座ろう、な?」
拒否する佳織をなんとか立ち上がらせて座らせた。震える肩を抱いた。しっかり抱いた。
…どんな状況でも優朔は優しい。
それが…返って辛い。感情に負けて声を荒げて怒ったりしない。
私は…迷いながら、揺れたまま、後悔を承知であんな事を…した。
自分を壊してしまいたかった。…浅はかだった。
「私が弱すぎたんです。偶然見てしまったから。……知らなかったの、あの場所が、…優朔の子供が通っている幼稚園だって知らなかったの」
「な、に、佳織、幼稚園て…行ったのか、見たのか?いつだ」
肩にあった腕がゆっくりと力無く背中を落ちていくのか解った。
「…はい。もう…かなり経ちます。優朔と奥様と…三人で車に乗るところ。手を繋いで…男の子、綺麗で愛くるしくて…優朔に抱き上げられていました」
優朔は再び肩に腕を回し、強く抱き寄せた。
両腕に力を込め、抱きしめた。