奪うなら心を全部受け止めて


「…佳織」

「…日常なんです。私が偶然目にしたものは当たり前にある日常のほんの一部なんです。
理解しようとしました。もっと早くから、平気でいられるように、頭に入れておかなければいけなかったのに。それが嫌で、逃げて…考えないように目を背けていました。
だから、なんでもない事だと思おうとする前に、心が負けてしまいました。
…私が弱すぎました。ごめんなさい」

腕の中から離れようとする。
…離さない。離したりしない。
…こんなコトで…俺達は壊れたりしない。

「佳織。俺のせいだ。すまない。謝らないでくれないか。佳織にとって見たくないものを見たんだ。すまない、としか言えない。佳織を責めるなんてことはできない。悔しいだけだ。受け止めて慰めることもできなかったということだ。
事実は……俺以外に…佳織を抱いた男が居るという事。…もう済んだ事だ。だからもう謝らないでくれないか…。これは俺のせいだから。俺が佳織に辛い関係を求めているせいなんだから。
だから、…謝らないでくれ。
ごめんな、佳織。見たくないモノ、見させてしまって」

「優朔、うぅ、う、ごめんなさい。ごめんなさい」

私が弱いの…弱かったの。

「だから、…もう謝らないでくれ…。
…そいつとは一度きり、それきりだろ?…もうないよな?」

「あ、…え…っと、ない」

身体を離して正面から話し掛ける。

「どうした?歯切れが悪いな…まさか…続いているのか?…。しかし、…そうか、…そうなっても仕方ないのか、…どうしようもなくて…やる瀬ない気持ちは…」

「待って。ない。本当にない。…一度きりだから。ただ…」

「ただ、どうした?弱みでも握られたか?
揺すられてるのか?どうした?」

物凄く心配顔で覗き込んで来る。

「違う。そんな事はない。それはないから。
だけど…時々お店に行ってる。…本当に偶にだけど」

あぁ…なんて事だ。ハマッてしまったのか…。
巧みな言葉に、ほだされて…。

「はぁ…ホストなんだな…」

「ホ?!。違う、違う。違うから。ホストが居るお店なんて行った事ない。一度だってない。
お店って…Barなの…」

「…Bar?!」
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