奪うなら心を全部受け止めて
秘密③
コン、コン、コン。
ん?弱々しいノックだが、誰だ...。
「はい」
……ん?聞こえなかったのか?入って来ないのか?
誰なんだ。
カチャ。
「どうぞ...。お、...」
「...すみません、突然。まだこちらにいらっしゃると伺いましたので」
「うん。もう秘書も帰ってしまって一人なんだが...」
「あの...少しお時間を頂きたくて。突然すみません。家では中々...人が居ますから。お時間も合いませんし」
「まあとにかく入りなさい」
人気を避けて来るくらいだ、簡単な用ではないだろう。
「はい。すみません、失礼します」
さりげなく腰に手を回され、部屋の中へ優しくエスコートされた。
こういった仕草は厭味のない、とても自然で紳士的な部分。この所作に限らず、何でもなくしている仕草でどれ程の女がドキドキさせられたのだろう。若い頃からずっと身についてきたモノに違いない。
「インスタントで良ければコーヒーが有るんだが。私が勝手に飲みたい時の為に置いてあるんだ。どうかな?」
「お飲みになられますか?それでしたら私が致します」
「ん、では頼むかな」
見ればスティックタイプの物が置いてある。カップに入れお湯を注ぐだけだ。
「はい、どうぞ」
「君は?」
「私はいいです。遠慮ではありませんので、どうぞお気になさらないで召し上がってください」
「そうか。何か別の物でもあればいいんだが、これしかないからな。すまないね」
「本当に、気になさらないでください」
...。
「それで、こんな時間にわざわざ訪ねて来た理由は何かな?」
「はい。...」
はぁ、言わなければ...、言わなければ始まらないし...終われない。
話して知っていて欲しい、その為に来たんだから。