奪うなら心を全部受け止めて
「あの...私...」
中々、後に続く、肝心な言葉が出せない。
この方と改めて話をするなんて、普段から会話するなんて殆どなかったから。
「どうした?話があるからわざわざ一人の時を狙って来たんだろ?」
「はい」
そうなんだけど。
...。
「あの私...妊娠しました」
正面に座る顔を見た。...不安だ、一体なんて言われるだろう。
...。
暫しの沈黙の後だった。
「...誰の子か解ってはいるのかね?」
「はい。私には解ります。あ、でも、...正確に言うのであれば、...知らない人ということ、そういう人です...解りません」
あの夜、その人とは、知らない人として交わした。
そう...知らない人と言って話した方がいい。
「どういう事かな?断定出来ないという意味かね?」
「あの...複数の人の中で誰か解らないというのではなく...人物は断定出来ます、解りますが、...知らない人だという事です」
真っ直ぐ目を見る。...伝わるだろうか。
ほぼ変わらない。でも、少し表情が動いた気がした。合点したのだと思う。
「...つまり、君と関係のある愛人以外の男、そう言いたい訳だね...」
「はい」
「どんな相手だと言うんだ?」
はっきり言って欲しいのだろうか。どんな話し方をすれば良いのだろう。
「見た目だけの事でしたら、...きちんとした身形で、お仕事帰りのようでした。こういう言い方はどうかと思いますが、とても高級なオーダーメイドのスーツを着ておられました」
「...…その男は、君にとって、そういう関係を持ちたい男だった。...そういう思いにさせた男、という事になるのかな?」
「...私が...私から声を掛けました。ない物ねだりをしてしまったのかも知れません」
強く目を見て話し続けた。
「...似ていたとでも言うのかね?」
この人は...私の隠した思いを知っている。
でも、それは言えない。
「...いいえ。違うと思います。あくまで、個人は個人、別です。
でも似ているところがありそうな人でした」
その男性と優朔さんは、当たり前だけど、やはり何処か似ている...。
「君にかね?」
え、私に?
この人は、私の何を確認したいのだろう。
その男性と重ねて、私の内面、感情を確かめたいと言う事だろうか。
似ているかと聞かれた事は、そう解釈する事も出来るから。
「なんだか、抱えたモノが沢山ありそうな、でもそれは見せず、深くて優しい、そんな目をしていました。長年のモノ、経験、厳しさ...とでも言いますか。何も語らずとも理解のある人に見えました。
都合の良い勝手な解釈ですが」
「...その男が父親という事だな?」
念押し...確認だ。
「はい、間違いありません。その方以外は有り得ません」
目は逸らさない。見据えた。