奪うなら心を全部受け止めて
運転席に乗り込み、エンジンをかけた。
……暖房…まだそこまで寒くもないか。…。
ネクタイを少し緩め…煙草、煙草…そうだ、煙草は上着の内ポケットの中だったか…。
丁度こちら側だから取ってみるか。
掛けた上着を少しめくり、内ポケットに手を入れた。
うん、ん…。
お…おお。起きたのか?…大丈夫そうだな。ふぅ。
…なんで俺が俺の煙草を取るのに、こんなに緊張しないといけないんだ…。
何とか手にし、一本取り出し、くわえた。
普通の女とは違う。どこか、もの凄く大事にしないといけないっていう気にさせる。そんな女の子だな。…何でだろう。
勿論、俺の彼女じゃない。…当たり前の話なんだが。
そうじゃないが。何とも例えがたい、純粋さみたいなものがそうさせるのか。
そうだな、真っ直ぐで健気だからだ。
この感じが、…優朔が、一目で惹かれた感覚なのかも知れない。
…大事にしたくなるはずだ。
…まだ手は出していないって言ってたし。下世話な話だ…。ま、俺が無理矢理聞き出したんだけど。
大人になる迄はシないって言ってたな。
…二十歳になる迄はって。
…それなのに、…今日はお前との関係を諦めて欲しい話をされたんだぞ…。
こんな大事な日…。
俺はくわえ煙草のまま佳織ちゃんの頭を撫でた。
指の背で頬に触れた。
あどけない顔で眠っている。本当に、こうしてると子供だ。
…煙草は吸えないな。
今更…外に出るにもドアの開け閉めで起こすかも知れない。
…この子の事、どんだけ、愛おしく思っているんだ?俺…。
これ以上、泣くような事にならないで欲しいけど。まだ結論が出てない。これからだ。これから悩むんだ…。
…優朔と、何とか上手く生きられないものだろうか…。