奪うなら心を全部受け止めて

まだ時間はいいな。
もう少しこのまま寝かせておこう。
家に送っても起こさなければいけなくなる。
もしかしたら、まともに寝られるのは今だけかも知れない…。
これから眠れぬ夜が続くかも知れない。いや、きっと続く。一人にしていいもんだろうか。

詳しくは知らないが、つき合っていた高校生の頃の一年間が一番幸せだったのかも知れないな。…何も知らず、ただ好きでいられたはず。
ただ好きなだけ、なんて、…羨ましい思い方だな。
俺も佳織ちゃんみたいな子と恋愛してみたかったなぁ…。

男女の出逢いは、万人に平等なのだろうか…。
届かない思いなら、いくら近くに居ても、出逢いではない、よな。
男と女。一対一なんだから、仕方ない話だ。
二番目、三番目では、所詮、縁がないに等しいというモノ…。
見守るしかないという事。

…俺もいつか、どこぞの御令嬢を紹介され、成り行きのまま結婚する事になるのだろうか…。
ま、幸いな事に、俺には拒否権がある。
会社の駒にならなくてもいい立場だから。…。

…穏やかな結婚をする前に、純粋な気持ちで…、ただ好きな人と恋愛してみたいものだ…。
優朔と佳織ちゃんを見ていると、忘れかけていたモノ、取り戻したくなる…。


……そろそろ、帰らないとな…。
人の彼女。長く一緒に居てはいけない。

「…さあ、さあ。…お姫様との夢の一時は終わりました…とさ」

俺は言い聞かせるようにわざと声にした。
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