奪うなら心を全部受け止めて


ショウが言うには、佳織ちゃんと先輩は今までと変わりなくつき合う。当たり前だけど。
だけど、表面上、別れた事にして、俺とつき合ってる事にする、だそうだ。

「ショウ、駄目だ。そんな事は…、直ぐバレるよ。それに、つき合ってる素振りをしないといけなくなるだろ?
多少なりとも一緒に帰ったり、…色々しないといけなくなるだろう?欺く為に。
そんな余計な時間を潰させる訳にはいかない。先輩は3年なんだから。佳織ちゃんと一緒に居られる時間は貴重なんだから。その時間が減る」

「そうだけど…」

ショウが俺に耳打ちする。

「千。満更でもなくないか?」

「はあ?!」

思わずデカイ声が出た。

「まあ、まあ。落ち着け。俺らが勝手に決める訳じゃない。あくまで一つの案だから。
高木先輩に話してみようぜ?
それで佳織ちゃんも納得なら、有りだと俺は思う。
題して、カムフラージュ大作戦ってとこかな」

「大作戦て…。大袈裟な作戦名だなぁ」

「成る程、いいかも。ね?佳織ちゃん」

「ちょっと直人、でも…」

果林が直人の袖を引っ張る。

「中橋さんの案、賛成です。誰も真実は知らない。俺らだけです。上手く騙せると思います。…ただ」

「何?直人」

「佳織ちゃんが酷い事言われるかも知れません。先輩と別れて、もう次の人、みたいな。
それに…」

「まだ何かあるの?直人」

「仲城さんは男前です。1年の女子にも既にもう大人気です。きっと2年生3年生の中にだって、仲城さんを好きな人、沢山居ますよね?
な、果林。そうだよな?」

「うん…確かに」

「だから、人が…高木先輩から仲城さんに変わるだけで、また何かされるかも、ですよね…」

「あちゃー。そうだ。俺、千と一緒に居過ぎて、そこ、鈍くなってた…。忘れてた。千が男前だって事。…俺とした事が。
どうする?千」

「どうするって…俺に聞くな…、俺に。だから最初から無理な話だって…」


「否、いいアイディアだと思う」

えっ?
声のした方に一斉に振り返った。

「高木先輩!」
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