奪うなら心を全部受け止めて
「友達から連絡もらったんだ。大丈夫か?佳織。直人君?だっけ」
「あ、はい」
「上着、有難う。このまま返して悪いんだけど」
先輩は上着を脱ぎ、素早く自分のモノと直人のモノを掛け替えて、羽織らせた。
「いえ、大丈夫です」
「ごめんね、直人君、有難う。濡れてるでしょ?ごめんね」
「いい、いい。気にするな?」
「ところで、さっきの話だけど。俺は必然的に卒業する。その後も佳織の事、頼むって相談してただろ?」
「はい」
「今の内から、千景とつき合ってる事にしといた方がいいんだ。その方がいい。俺が卒業した途端、千景とつき合うって体も、佳織は酷く言われるだろう?」
なにも…つき合わなくてもいいんじゃないか?
なんで俺とつき合う前提の話ばっかりなんだ?…。そのまま、誰ともつき合ってなくて護ればいいんじゃないのか。この話だってなしにして、高木先輩と別れたことにするって案もありじゃないのか?
誰かとつき合ってる方が、男子からの余計な声も掛からなくて済むからか?…。そこなのか?
「だったら、現状の方が、俺と佳織の別れ話も、捏ち上げ易い。…こんな事もあったばかりだし。
そのかわり、有ることないこと言われるだろう、初めはな。それは仕方ない。でも、それも、長くは続かないだろう。
大丈夫だ。俺と佳織の貴重な時間は俺が作るから。大丈夫だ、佳織。
この案に乗ってみないか?無謀だと思うか?」
「…少し、考える時間をください。今日みたいに何かされた時、強く居られるか…考えてみます」
…。
「否、なら、答えは出てますよね?」
「千?」
「佳織ちゃん、前と同じだ。
何かされた時の心配をしてるという事は、もう既に心は決まっているという事だよ。この案は実行だ」
ああ?俺、言い切っちゃってる?…。
「千…」
ショウが、いいのか?、みたいな顔で見てる。
何を今更。ことの発端は…お前のせいでもあるんだからな、ショウ…。
高木先輩が頷く。
俺は告白した。
「…佳織ちゃん。俺とつき合ってください」
高木先輩が佳織を見て頷く。佳織も頷く。
「…はい、宜しくお願いします」
かくして、ショウ曰く、カムフラージュ大作戦は、粛々と始まる事となった。