片道のRe:
しかし、時間は私の都合など待ってはくれない。

準備の合図が出て、私はふわふわとした心地のまま、一路に伸びる真っ赤なラインを見つめた。


――今はレースに集中。

乱れる脳に言い聞かせ、長く深い息を吐く。

地に手のひらを付き、腰を上げ、暫しの沈黙。
弾け飛ぶピストル音と同時に、思い切り一歩を踏み出した、その時だった。


「ッ!?」


一歩目の足がもつれた。

ヤバイ、と反射的に腕をぐるんと回してバランスを取り、何とか転ぶことは免れた。
しかし顔を上げれば、両隣の選手とは既に一人分の差が出来ている。


「――ッ!」


前を行く背中に喰らいつき、形振り構わず腕を振った。

綺麗なフォームなんて忘れた。
ただがむしゃらに風を切って、割って。

水平に伸びる白線を踏み締めた瞬間、どっと力が抜けた。


はっ、はっ、と浅く切れる呼吸。
子鹿のように震える足に、大粒の汗がぱたりと落ちた。

しかしここで膝を折るわけにはいかないと、太ももを叩き、歯を食いしばって顔を上げる。


順位など、確認しなくても分かっていた。
ただその瞬間は、虚無にも近い空っぽの達成感で満たされていた。

見上げた空は、嫌味なほどに青かった。

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