ロールキャベツは好きですか?
「梨といえば、祈梨さんの名前、梨がついてますよね?どうしてなんですか?」
祥吾くんの質問は最もだ。
"り"と呼ぶ漢字なんて山ほどある。
「私のお母さん、つわりが酷かったんだって。何食べても吐いてたのに、何故か梨は食べれたらしいの」
梨が食べれると知るまで、お母さんは何ひとつ食べれなかったから、栄養失調で点滴を打たなくちゃやっていけなかった、とお母さんは言っていた。
「お父さんがね、私の幸せや健康を祈ってるってところから『いのり』って名付けたの。お母さんがその漢字を決める係でね」
目の前に置かれた、みずみずしい梨を見つめる。
「命を繋いでくれたのは、梨だったって言ってた。だからこの漢字を使いたかったんだって」
子供への最初のプレゼント。
私は結構、この名前を気に入っている。
なかなか普通には見かけないし、だからと言って、誰も読めないほど、偏屈な名前でもない。
そんな最高のプレゼントをくれた両親はすでに亡くなってしまった。
父は私が高校生のとき。母は昨年。
「素敵ですね。俺、祈梨さんのお母さんに会ってみたかったなぁ」
「お母さん、カピバラ好きだったから、祥吾くんを紹介したら、喜んでたかもなぁ」
口をあけて笑うと、祥吾くんはいつもみたいに、口を尖らせる。
「俺はカピバラじゃないですよ!そろそろからかうのも止めてください」
「はいはい」
祥吾くんの抗議は軽く流して、また食パンに齧り付いた。
食べれば食べるほど美味しい。
「ほんと、幸せそうに食べますよね。祈梨さんは」
「だって美味しいんだもん。ふたりで食べると。一人で食べてても味気なくてさ」
「確かに誰かと笑い合いながら食べられるっていいですよね」
ベーコンを咀嚼しながら、彼は微笑んだ。
幸せな朝だった。