ロールキャベツは好きですか?
俺と視線が絡まると祈梨さんは気まずそうに眉を潜めてあからさまに視線を逸らした。
「渡邊どうする?ここに証人二人いるからセクハラとして訴えられるけど?」
松谷課長は静かに問うた。その言葉に何よりも出世の心配をしているらしい双山部長は震え上がる。
祈梨さんは微かに迷った素振りをしたが、やがて首を横に振った。
「そこまでしなくても、いい」
「なんで?」
声を放ったのは俺だ。
あんなに最低な男をまだ庇うのか、と思ったら、知らず知らずのうちに言葉を発していた。
祈梨さんが俺のことを見つめる。
「部長が減給や退職を余儀なくされたら、困るのは向井さんだわ」
その言葉が俺に対しての言い訳だったのか、純粋に向井を心配していたのかは、判別できない。
どちらにせよ、次に言葉を発したのは、向井本人だった。
「私のことはお気になさらず。寿退社が表向きの理由となってますが、友人とアクセサリーのお店を営むつもりですから」
初耳だ。
唯一話を聞かされていたらしい双山部長以外、一同目を丸くする。
「アクセサリー店って……」
ポツリと呟いた俺に向井は笑顔を向ける。
「私と玲奈の高校時代からの夢。田島だって知ってたでしょ?」
「玲奈……」
玲奈と付き合っていたとき、確かに、そんな夢を語られたことがあった気もする。
「ですから、私の心配ではなく、渡邊主任の良心に従って、判断してください。……まぁ、こんな浮気男が会社を仕切るぐらいなら、松谷課長や渡邊主任に任せるほうが将来安泰だと思いますが」