知らない貴方と、蜜月旅行
そっと私の左手を持ち上げ、薬指に嵌めたダイヤが光る指輪。その瞬間、私の涙腺は崩壊した。若干、大きくて指を下に向けたらストンと落ちてしまいそうだけど、そんなことはどうだってよかった。


吏仁にも同様、左手の薬指に指輪を嵌めると、吏仁は少しだけ口角をクッと上げ笑った。


「それでは、誓いのキスを」


少しだけ嬉しさを感じたのもつかの間。また、牧師さんの言葉に私は固まる。〝誓いのキス〟。忘れていたわけではないけど、どうするのだろう。


そんな私の頭の中を知ってか知らずか、吏仁は迷うことなくヴェールを持ち上げた。もうこうなったら、どうにでもなれ!そう思い、私はゆっくりと目を閉じた。


……吏仁の唇の感触が伝わる。それは、私の唇でも、頬でもない。おでこに、感触が伝わったのだ。


パチっと目を開くと、吏仁と目が合う。ねぇ、吏仁は私が覚悟を決めて、目を閉じたのを見抜いてたの?それとも最初から愛のない女には、しないつもりだったの?


「紫月」
「えっ?」
「なに、ボーッとしてんだよ。終わったぞ」
「え、嘘っ」


気付けば、牧師さんが、にこやかやに、私たちを見ていた。一体いつ終わったのだろうか。なんだか、知らぬ間に終わってしまっていた。


「お疲れ様でございました」
「……ありがとうございます」
「とっても、素敵なお式でしたよ」



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