強引同期と恋の駆け引き
ネクタイを首から引き抜きながら階段を上り自室で着替えてくると、食卓にはすでに夕飯が用意されていて、味噌汁から湯気が昇っていた。
実家暮らしのありがたみを味わいながら平らげ、食後の茶で一息ついていると、片付けられたテーブルの上に袋の中身が広げられる。
「念のために聞いておくけど、この中にあんたの『本命』はないのよね?」
「……ああ」
それでは遠慮なく、とひとつひとつを検証しながら贈り主と中身をリストアップしていく様は、もう何年も続くの恒例行事になりつつあった。この様子を見たら、さすがに彼女たちも来年から渡すのを諦めるだろう。
……来年か。
「いや、来年はないな」
俺の呟きに姉が顔を上げる。
「なに? ついに、身を固める決心がついたとか?」
なぜ話が一気に飛ぶのか。その思考回路が見てみたい。
「転勤になるんだ。北海道に」
「えーっ!!」
母、姉、姪の声が三重奏を奏で、テレビを見ていた父親までもがソファーから振り返った。
「いつから? 住むところはどうするの? ご飯、作れる?」
「カニ、送ってよ! あとボタン海老も。それから……」
「あたし雪祭りみたい! 旭山動物園もっ!!」
一斉に姦しく喋り始めた女どもに、呆れつつも納得する。
そうだよな。これくらいのリアクションがあって当然だろう。なのにアイツときたら――。
目の前に転がってきた透明のセロハンに包まれたチョコを握り締めた。
「それもバレンタインのもらいものなの? いっしょに入っていたみたいだけど」
「えっ? まあ、もらったといえば、そうなのかな」
姉が他のチョコと比べてもあきらかに毛色の違うそれを訝しんだ。