強引同期と恋の駆け引き
「いや、いつも通り普通でいいから。適当に頼むよ」
どっと疲れが出て、つい手の中にあったチョコレートを口に放り込んだ。
「了解。でもね、本命の人からもらえるんだったらなんでも嬉しいものなのよ、女の子って。それが自分の好きなものだったらなおさら、ね」
散らばっていた一口チョコをまとめてこっちへよこす。
「ところで、それにはメアドも番号も、贈り主の名前すらないんだけど、どうする?」
訳知り顔で目を細くした姉の表情と、久し振りに口にしたチョコの甘さに思わずむせかえった。
「あ、いや、うん。これの分は用意しなくていいから」
残りをガサリと掴むと、スウェットのポケットに突っ込んだ。
仕事終わりにそのまま迎えに来た義兄も、我が家で少し遅めの夕食をすませた。
「今年は五個もらえたよ」と嬉しそうに報告した義兄に、年甲斐もなく口を尖らせた姉。つくづく女心は不可思議だと思う。
おかず入りのタッパーとチョコが入った袋を下げ帰り支度をした一家を、玄関先まで見送りに出る。
娘の首にグルグルとマフラーを巻き終わった彼女が、思い出したように俺を見上げた。
「来年の分は、家に送ってもらって構わないから。もちろん、カニとイクラもつけてね!」
よろしく~と手を振りながら、徒歩十分足らずのマンションまで帰っていった、仲良く並んで歩く親子の背に向けて吐き出したため息は、白く冬の夜に溶けていった。
―― SS おわり ――


