金曜日の恋奏曲(ラプソディ)
…須藤くんは、間一髪で追いついた。
そのままドアを開けようと引く私の手を掴み、ドアを押して勢いよく閉めた。
衝撃波が、まだ私達に降り注ぐ。
私達は、ただ黙ってしばらくの間二人とも呼吸を整えていた。
須藤くんが私を後ろから抱きしめているような体勢になっている。
ドアにかけた私の手の上に、須藤くんの手がそのまま重なっている。
下を向いて、肩で息をする須藤くんの顔が、私の真横にある。
…わざわざ左を向かなくても、首筋に息がかかる。
心臓が破けそうだ。
「…………長谷川さん…………早……っ………。」
少しだけ、微笑を含んだ声。
ぎゅん、と奥が鳴って、別の意味で苦しくなる。
相当全速力で走って来たみたいだ。
そりゃそうだ。
私の方が早くスタートダッシュしたし、距離もあった。
…それに、こっちだって死に物狂いで走ったんだから。
私が躊躇わないでドアを開けていれば、追いつかれることは無かった…。
私は目を伏せた。
"観念"
それだけだった。
…のに、どこかで、"安堵"だなんて。
念のため、今からでもドアを開けれるのかと、ドアノブを捻ろうと試みる。
けれど、びくともしなくて。
ふーー、と須藤くんが長く息を吐く。
須藤くんの左手はドアノブから剥がれて、けれどもそのまま離れる事はなく、横にスライドされてドアの壁につけられる。
私は壁を向いたまま、いよいよ左右の逃げ道を防がれてしまった。
須藤くんの腕の中に、すっぽりと収まってしまっている。
顔が燃えるように熱い。
つま先から頭のてっぺんまで、全ての神経が敏感になっている。
汗が止まらない。
あまりの状況に、何もしていないのに目の潤いがすごい。
…心臓が、口から飛び出そうだ。
まだ少し荒いままの呼吸で、須藤くんが私の左耳に話しかけた。
「……ごめん。お願いだから、聞いて欲しい。」
そして、少し溜めた。
「こっち向いて。」
…背中が、ゾクッとした。
…反則だ。
……耳元でその声は、ズル過ぎる。
私は小さく、首を振った。
声が出ないながらも、抵抗の意思だった。
落ち着かなくて、熱に浮かされてるみたいだ。
「お願い。」
須藤くんは繰り返す。
熱い吐息が残る。
空気の配分が多いそのハスキーな声に、耳が爆発しそうになる。
吹っ飛びそうになった理性を、なんとか捕まえた。
…何のためにここまで逃げたんだ。
「…嫌…です…。」
私は壁に向かって呟いた。
視界がぼやける。
泣くな泣くな泣くな泣くな泣くな泣くな泣くな泣くな泣くな泣くな泣くな泣くな泣くな泣くな
ひたすら唱える。
ここで泣いてはいけない。
須藤くんは、ハァ、とため息をついた。
ドキッ、とする。
そして、
「………………なぁ。頼むから。」
ワントーン低くなって、どこか命令的に、どこか懇願しているような、その声に、
「…………なんでぇ…………?」
…私は、振り向いた。