金曜日の恋奏曲(ラプソディ)
...あ、と、また繋がった。
里見先生も、須藤くんと、(つまりはりっちゃんともかな?)、似てるところがある...。
気付いて、単純に、嬉しくなった。
...私はなんて、幸せ者なんだろう。
...私の周りに、私を理解してくれる人が、こんなにいるってこと...。
本当に、良い人ばかりだ...。
私が微笑んだのを、里見先生は肯定的に受け取ったようだ(何をだ)。
ワクワクした口調で聞いてきた。
「...で、どっだったのどうだったの??」
「...ど、どうとは...。」
私がタジタジで答えると、里見先生がうーんと考え出す。
「えっと、まず、どっちが誘ったの?」
いきなり、軽く喉が詰まった。
...りっちゃんの時もそうだったけど、自分で言うのって結構...照れるんだよね...。
「...あの、す...須藤くんが...誘ってくれて、」
ドギマギして、意味もなく前髪を整えながら、私は言った。
「えっ!!あっちから!!」
良かったじゃな~い!と、里見先生は私の肩を叩く。
私は苦笑いしながら、やんわりと里見先生の手を払った。
里見先生はそんなこと気にも留めない様子で、また嬉しそうに笑って私を見た。
「...で、他には?」
...ほ、他には...。
「...あとは、たい焼きを一緒に食べて...
...い、色々あって、『私以外の女の子とは話さないで』みたいなことも、い、言っちゃったり...」
里見先生から、図書室にふさわしいとは言えない音量の声があがる。
しかし、私の方はと言えば、里見先生には構わず、そこからの続きに躊躇っていた。
...実は、りっちゃんに話した時、ちょっと迷った挙句、ここまでしか話さなかったんだ。
ていうのも、今まで色々話してきてなんなんだけど、須藤くんからしたら、私にどこかで自分のことを話されて騒がれてるなんて、あんまりいい気分じゃないだろうと思ったから。
それから、あの日の最後の、手を触れてた時の感覚は、言葉にしなくてもお互いを分かりあえてるようなあの空気感は、どう言っても伝えられないと思ったから。
そして、やっぱり一番大きい理由は...
...あれは伝えたくないと、2人だけのものにしておきたいと、思ってしまったから。
これだってまた、しょうもない独占欲だって、分かっている、けど...。
私は控えめに口を開いた。
「...あの」
里見先生が、ん?と首を傾げる。
私は口を開いて、でも失礼だったらどうしようと口を閉じて、また、開いた。
そして、スカートの端を握り、迷いを振り切るように言った。
「...あのっ、後は、えと、2人の秘密にしておきたいので、ち、ちょっとここまででいいですか?」
...また、そんなつもりじゃなかったのに、深い意味合いの大胆発言になってしまった、と顔が赤くなる。
里見先生は、キョトンとした顔で、私を見て、それから、
「きゃー!二人の秘密!?琴子ちゃんてば、大胆ー!」
...と、からかうんじゃないかと、と思ってた。
でも違った。
里見先生は、私の意見を聞いて、キョトンとして見て、それから...あの、優しい目になって微笑んだんだ。
私は予想外で少し驚いて、でも、すぐに納得する。
そうだ、そうだよ...里見先生は、こういう人だった...。
心の奥が、じんわりと温かくなってくる。
里見先生は、大袈裟にため息をついた。
「まったく、琴子ちゃんも真面目なんだからっ。」
そして、眉をあげて、私にどこか意味深な視線を向ける。
「...まあ、琴子ちゃんのことだから色々考えたんだろうし、幸せそうな笑顔を見ただけで、私はもうお腹いっぱいだけどね。」
里美先生は、また、フッと微笑んだ。
...し、幸せそうな笑顔って...
...私、そんなにダダ漏れ...!?
私がそれはそれで、と焦るのもいざ知らず、里見先生は、カウンターに用意してあった本を私に渡して
「これ、前貸したやつの続きだから。
じゃあ、またいつも通りよろしくね!」
と手を振って、奥の部屋へと去っていった。