金曜日の恋奏曲(ラプソディ)
...そういえば。
と私はスケジュール帳を手に取った。
一学期の期末試験が、迫ってきている。
今が六月の第3週で、七月初めのテストまで、あと2週間ほどだ。
そろそろ数学以外にも始めないと、かな...。
そう思って、横に置いてあるバックから他の教科を取り出そうとした。
けれど、そんな中でも、どうしても意識はしてしまう。
あくまでも自然な目線の流れで一瞬チラッと、見だけだった。
のに。
.....こちらを見ていた須藤くんと、しっかり目が合った。
反射的に、私は目線を逸らした。
...え。ちょっと待って、今のって...。
心臓が慌てて何かを告げようとして逸り、汗が噴き出してくる。
だって、私が須藤くんを盗み見ることは今までだって沢山あった。
...だけどこれじゃあ、まるで。
...私と同じように、須藤くんも私を見てたみたいな...。
一気に、熱い何かが駆け上がってくる。
...だとしたらいつから...?
そうと決まったわけじゃないのに、体が熱を帯びて硬直した。
ドキドキ胸がなって、でも同時に、より大きな不安が私の心の内に広がっていく。
...いや、流石に良いように考え過ぎだから...たまたまだから...期待し過ぎだから...。
呪文のように、言い聞かせるように、そんな言葉達は頭を回る。
期待して、私だけの勝手な妄想であったんだと現実を突きつけられることは、とても怖くて。
須藤くんを好きになる度に、私は臆病者になっていく...。
知ってしまったこの幸せな気持ちを、失いたく無いから。
私は、汗ばむ手で、プリントが入っているファイルを探った。
...その時、須藤くんが控えめに口を開いた。
「...あ、ごめん、ずっと見てたとかじゃ無いんだけど...。」
ハッとした。
遠慮がちに、こちらを伺うように言う須藤くんに、もしかして今私かなり感じが悪かったんじゃないか、と思い至った。
私...今結構嫌な顔してた?
須藤くんが、自分の行動に嫌悪してのことなのでは、と思うほどに。
だとすれば、それは大きな間違いだ。
私は、とんでもないという風に手を振った。
「...そ、そんなこと思ってないよっ。」
嫌だとも、思ってないよ。
そう付け足すことは、出来なかった。
でも、須藤くんは、私の言葉に安心して頷いたように見えた。