金曜日の恋奏曲(ラプソディ)
「...期末試験の勉強、始めてる?」
私は、須藤くんにそう投げかけた。
折角須藤くんから話しかけてくれたのだから、このチャンスを無駄にはしたくなかった。
でも、あまりの唐突な話題に、須藤くんがキョトンとした表情になる。
...そ、そりゃそうだ!
でも、須藤くんは、にこっと笑った。
「してるわけ、ないよ。」
...正直予想外だった台詞に、ドキッと心臓が跳ねる。
優しさは...もうもちろんの事、何が予想外だったかって、勉強を始めてないことじゃなくて、須藤くんがいつもとは違うノリで返してきたこと。
少し砕けた言い方は、フランクっていうか、今までなんとなく意識していた一線を感じさせなかった。
私はドギマギしているのを悟られまいと、意味の無い笑顔を浮かべて言った。
「...そ、そうなんだ。
...毎週自習しに来てるくらいだから、凄い勉強するタイプなのかなぁって思ってた。」
須藤くんは私の顔から目線を落とした。
「...あー...まぁ、ここには勉強しに来てるって訳でも無い、し...。」
須藤くんは、言っている途中で、口が滑った、とでもいうようにハッと口を押さえた。
...でも、もう遅い。
私の期待センサーを発動させるのには、十分過ぎた。
いつかの何かの台詞が、リンクして引っ張り出されてくる。
...あぁそうだ。
前に、金曜日にしか来てないって、しかも友達とかを待ってるわけじゃないって、言ってた。
...じゃあ、わざわざ金曜日に、勉強する意外の目的でここに来る理由って何...?
鼓動が、体全体を震わせる。
...須藤くんは、狡い。
こんなの聞いたら、どうしたって私は期待してしまうこと、須藤くんも私と同じ理由なのかなって考えざるを得ないってこと、そろそろ気付いてくれたっていいのに...。
気付かれたら気付かれたで、色々問題はあるけれど。
でも、私が困った顔をして見上げると、それに気付いてフハッと眉を八の字にして笑う須藤くんは、本当に狡い。
須藤くんはシャーペンを回しながら私に言った。
「…でも、長谷川さんこそ、そろそろ始めようとか思うタイプじゃないの?」
グッ、と喉が詰まった。
...く、悔しいけど
「その通りです...。」
私が頭を垂れたら、須藤くんはまた笑った。
ほらね、こういう所でも。
私は予想外のことばかりの須藤くんに振り回されてばっかなのに、須藤くんはひょうひょうとして、私のことなんて全部お見通しみたいなんだもん...。
須藤くんがボヤくように言った。
「でも、偉いと思う。俺は、どうしたってギリギリになるまでだらけちゃうし...。」
私はいやいやと首を振った。
「私はかなり前からやらないと、本当に出来ないだけだから...。」
数学だって、毎回こうやって宿題プリントやってるのにテストではいい点取れないし...。
...やる時に集中出来てないからかも知れないけど。
「...国語とか英語は、勉強したらその分結果に出てくれるけど、数学は本当にどうしても出来ないんだ...。」
何かを、求めて言ったわけじゃ無かった。
狙っていたわけでも、もちろん無かった。
だから須藤くんがそんなことを言い出すなんて、本気で考えてなかったんだ。
須藤くんは、少し考えるような素振りを見せた後、静かに手を挙げた。
「...俺、理数系です。」