ヒーロー(ヤンデレ)が死亡しました
「まさか、あれって……!」
先には甲冑の集団に、東帝国が軍旗。
騎士団『明けの境界』であることは明白だった。
彼の死体を持って行ったという時から日付は経っている。なぜ、騎士団がまだこの森にいるのか。
考える前に、サクスくんが駆け出す。
「何者だ!」
当然のように、騎士の一人に止められた。
「あ、あの!退治してほしい奴がいるんす!騎士団の力を貸してもらえませんか!人の命がかかっているんすよ!」
サクスくんの要件を聞くなり、剣を収める騎士。どうしましょうと、恐らくは部隊の指揮を取る人物に指示を仰いでいるが。
「任務外。拒否する」
答えた人物は、随分と小柄な少女だった。
周りが銀の甲冑を身にまとう中、その少女だけが軽装。剣すらも帯刀していないが、背の低い少女に合わせるようにしてわざわざ騎士が腰を曲げているんだ。ただの同伴者ではないだろう。
「そんなっ!騎士団なら、モンスターを!」
諦めきれず、尚も食いつくサクスくんを次に止めたのは、私たちの膝元もない身丈の甲冑だった。サクスくんを囲むほどの数がいる。
強者揃いの騎士団が、子供を入隊させているわけがない。サクスくんを威嚇するように牙を剥かせる顔は狼のそれ。二足歩行をし、甲冑を身にまとうモンスターだった。
「モンスターを使役……」
ぼそりと口に出たことを少女は聞き取ったのか、私の方に目をくべる。
「我ら、明けの境界が第二部隊。任務遂行がため行動。邪魔は、排除する」
人間味がないような機械的な喋りは、躊躇わずに行動に移すと示唆しているようだった。
サクスくんの腕を引き、制止する。
無理だとサクスくん自身も分かりきっているのか、奥歯を噛みしめ頷く。
同時に、使役されているモンスターたちも列に戻る。
「町の者ならば、モンスター退治は自警団に依頼しろ」
「そいつらじゃ敵わないから、あんたらにお願いしてるんすよ。たまには、王都だけでなく、片田舎の手助けもしたらどうなんすか。王さまのお使いついでにでも」
つっかかるような物言いに騎士は売り言葉に買い言葉で挑もうとしたが、少女の視線で押し黙る。
「任務にあるは、目的達成のみ。他、不要」
淡々とした口振りを聞くなか、つい、彼の体はないかと列を一瞥してしまった。
有り得ないこと。もう時は過ぎている。
騎士団の人たちが持って行ったすれば、既に王都にたどり着いている。
「その、三週間ほど前、男性の遺体をーー」
言葉を止めたのは、サクスくんが私の口を塞いだからだった。
いきなりのことに目を丸くする間に、耳打ちをされた。
「す、すみませんっす!な、なんか、クラビスさんが止めろって、脅してきて……!」
でも、誰が彼女の唇に触れろと言ったー!と怒られたか、サクスくんが何もない場所にもすみませんを連呼する。
話すなとは彼の意向にせよ、口から出たものは戻せず、少女はわずかに眉根を寄せた。
「“夜空”の関係者?」
『お前の心臓だ、“夜空”!』
あの三つ目の言葉を思い出す。知らずと鼓動が早くなる。抑えるように、胸に手を当てて聞いた。
「あの、“夜空”ってなんですか?」
彼を死に追いやった要因ともなろう言葉を問う。
「……。世界の片割れ。“天明”と“夜空”」
「えっと……」
「強い魔法使い」
「なるほど!」
分かりやすく説明してもらえたいい人だ。
更に掻い摘まんで説明してほしいところだけど、サクスくんがバツ印を腕で作っているので、彼はどうやら私に聞いて欲しくないらしい。