ヒーロー(ヤンデレ)が死亡しました

ーー

「気持ちいいー」

口に出してしまうほど、最高だった。普段シャワーのみで済ます身のため、湯船につかるのは若干の違和感があったが、肩まで浸かれば全てがどうでも良くなる。ローズマリーの香りもまた、心安らぐ。

半日の歩きでパンパンとなったふくらはぎをマッサージしつつ、お風呂を堪能。

いっそ、ここで寝たいのだけど、いい人さんが「湯船で寝るとは、なんだ、己の邪悪さを実感したのか。ええいっ、その程度で汚れが払えると思うとは、なんて浅はか!嘆かわしいっ、ここまで無知とは!少しでも使える頭になるためにも、糖分を摂取することだなぁ!」などと、寝たら溺れますし、デザートつき夕食の準備もしていますので、いけませんよ。と諭してくれる場面が想像できたので、まぶたに力を入れておく。

湯気立つ天井を仰いだ。
幽霊というからには、彼もこの湯気のようにふわふわ浮いているのだろうか。

「私が泣いていたから、天国に行き損ねちゃったのですか」

ぼそりと独り言。
また、私のせいでと落ち込みそうになるが、彼がそれを望んでいないからごめんなさいは言えない。

「辛いーーつらかったですよね……」

どんなに相手を呼ぼうが気づいてもらえない悲しさ。私も彼の首相手に言葉をかけ、ああやっぱり彼は死んだんだと涙したものだけど、それらを含めて『俺はここにいる』と叫び続けた彼が頭に浮かぶ。

残された辛さばかり目立っていた。彼はもう、この世にいないと思ったから。あれだけ、私が傷ついたり泣いたりすることを嫌った人だ。自分が死んでから今まで、彼はいったいどれほど叫んでいたのだろう。


「サクスくんに感謝ですね」

こうして、あなたが近くにいると分かったのだから、言葉のキャッチボールは出来なくともこれからは挨拶や、彼が近くにいることに勇気づけられーー

「……、近く」

はた、と気付く。

私に取り憑いているとサクスくんは言ったけど、つまりはそれって、現在進行形も含む、よ、ね……

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