あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
 小林さんはもう一度ギュッと私の身体を抱きしめると、ゆっくりと腕の力を緩めた。見上げると少し顔を曇らせた小林さんの顔があって、私がどれだけ小林さんを傷つけたかを物語っている。


 付き合い始めると色々な問題が起きてきて、その都度に二人の絆が確かめられることもあるだろう。でも、私と小林さんの上に訪れた問題は大きな波になって私と小林さんを覆い尽くす。


「美羽ちゃんの今置かれている状況は分かった。正直、行って欲しくない。傍に居て欲しいと思うから。でも、もしも行かなかったら、美羽ちゃんが苦しみそうなのが分かる。そう思うとすぐには返事できない。だから、一緒に考えよう。美羽ちゃんも俺も幸せになれる方法を…」


 小林さんは私が自分の祖母の病気のこともあって本社営業一課に来たのを知っている。私の気持ちが揺れているのも分かっていたのだろう。私が今日、この場でこの恋が終わるかもしれないとさえ思っていたことさえ分かっているようだった。


 中垣先輩のお祖母ちゃんのことを聞いて私はずっと緊張していたのだろう。そんな緊張が解けると共に緩むのは涙腺だった。私の意思とは関係なくゆっくりと涙が頬を伝っていた。泣くのはいけないと思うのに私の涙は止まらない。


 私の涙は頬を伝い、小林さんのシャツに吸い込まれていく。さすがに濡らしたら申し訳ないと思い、身体を引くと離さないとかいうようにキュッと腕に力が籠った。

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