あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
 自分の声ではないくらいの低い声に自分でも驚いてしまう。あまりにも苦しすぎて声が掠れている。この瞬間を自分の時間から切り離したいくらいに心が痛い。軽く息を吐いてからもう一度見つめた。私が見つめると、小林さんは私の方を見て真剣な顔で頷いた。


「ん。何?」


 小林さんは私の言葉を待ってくれる、でも、私の言葉は出ない。


「あの…。」
 

 頭の中で文字は回るのに口に出すことが出来ない。私は小さく息を吐いてから、自分の気持ちを言葉に乗せていく。


「フランス留学に行くことにしようと思います」



 私がそういうと、小林さんはただニッコリと微笑んだ。私は泣きそうなのに…小林さんは微笑んでいる。そして、いつもよりも落ち着いた声を静かに響かせるのだった。



「美羽ちゃんの性格を考えればそうなるだろうって覚悟はしていた。でも、美羽ちゃん。俺は美羽ちゃんがフランスに行っても別れるつもりはない。長距離恋愛の覚悟くらいしてきた」


「え?遠距離恋愛」


 私の言おうとしていた別れるという言葉を言う前に否定する。こんなに悩んで決めたことなのに小林さんは私の別れ話は聞かないみたいだった。


「でも、二年も行くのに。それも日本じゃなくてフランスです。一回行ったら、中々帰ってくることは出来ないです」
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