あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
「はい。そろそろ帰ります」
「ああ、でも、俺はもう少しする」
「泊まりですか?」
「部屋には戻るつもりだが」
中垣先輩の話を半分だけ聞きながら私はゆっくりと両手をあげ伸びをする。仕事の疲れと充実感が私を包んでいる。こういう時に自分に研究職というのはあっているのだと思ってしまう。
「本当に良かったのか?」
中垣先輩の声が誰もいない空間に響く。静かな空間だから、呟くような言葉も聞き取れる。もう所長に私がフランスに行くと言ってしまった後なのに、中垣先輩の心には私のフランス留学が頭から離れないのだろうか。
「大丈夫です。私が決めたことです」
そう私が決めたこと。
誰の指図でもなく私の心が決めたこと。
「二年は長いぞ」
二年という月日が決して短くないのも分かっている。それでも私が決めたことなのだから何があっても後悔しない。そう自分に言い聞かせる。私がそう言って見つめると、中垣先輩はフッと視線を道路に落としてから、私の方を向き直った。普段の中垣先輩とは違う雰囲気に心臓がキュッとなる。
「もしも…。いや。いい。俺はもう少し研究をしてから帰るから先に帰ってくれ」
「お先に失礼します」
「ああ。お疲れ」
中垣先輩は何か言い掛けたけど、その言葉を飲み込んだ。何を言いたかったのか聞きたかったけど、一度飲み込んだ言葉を聞いても多分私には言わないと思う。中垣先輩はそんな人だ。私は自分のパソコンの電源を押すと中垣先輩を残し、研究室を出たのだった。
「ああ、でも、俺はもう少しする」
「泊まりですか?」
「部屋には戻るつもりだが」
中垣先輩の話を半分だけ聞きながら私はゆっくりと両手をあげ伸びをする。仕事の疲れと充実感が私を包んでいる。こういう時に自分に研究職というのはあっているのだと思ってしまう。
「本当に良かったのか?」
中垣先輩の声が誰もいない空間に響く。静かな空間だから、呟くような言葉も聞き取れる。もう所長に私がフランスに行くと言ってしまった後なのに、中垣先輩の心には私のフランス留学が頭から離れないのだろうか。
「大丈夫です。私が決めたことです」
そう私が決めたこと。
誰の指図でもなく私の心が決めたこと。
「二年は長いぞ」
二年という月日が決して短くないのも分かっている。それでも私が決めたことなのだから何があっても後悔しない。そう自分に言い聞かせる。私がそう言って見つめると、中垣先輩はフッと視線を道路に落としてから、私の方を向き直った。普段の中垣先輩とは違う雰囲気に心臓がキュッとなる。
「もしも…。いや。いい。俺はもう少し研究をしてから帰るから先に帰ってくれ」
「お先に失礼します」
「ああ。お疲れ」
中垣先輩は何か言い掛けたけど、その言葉を飲み込んだ。何を言いたかったのか聞きたかったけど、一度飲み込んだ言葉を聞いても多分私には言わないと思う。中垣先輩はそんな人だ。私は自分のパソコンの電源を押すと中垣先輩を残し、研究室を出たのだった。