あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
『待っています』


 私は左手の指を見ながらそうメールを打つ。自分の中で会いたいと思う気持ちが言葉になってスルリと流れ出たように感じた。ドキドキは止まらないのに、それでもメールを打ち、送信ボタンを押すとちょっとだけ不安になる。婚約をしたのだから泊まったりするのも当たり前だと思う。でも、まだ小林さんと婚約したという実感はない。


『じゃあ、今から美羽ちゃんの部屋に行くね。途中で弁当でも買ってくる。何がいい?』

『食事。まだだったのですか?』

『軽く食べたけど、まだ食べられるから大丈夫。俺も美羽ちゃんと同じ弁当にしようかな』


 小林さんらしいと思う返信。小林さんの食欲ならきっと私が食べるお弁当くらいは軽く平らげるだろう。でも、もう少し私に時間があれば、小林さんに何か作ってあげられたのに…。そんなことを思う私もいる。


 私が普通のお弁当を頼むと小林さんは『了解』とメールが来たのだった。


 最寄りの駅のホームに電車が入ると、私は急いで降りた。私が走ってもそんなに早くは着かないのに、足だけは自分のマンションに向かって走ってしまう。少しでも早く帰って小林さんを待っていたい。そんなことを思った。


 待っていたいと思った私の目の前には小林さんの姿がある。私の住んでいるマンション玄関のところに小林さんは居て、手にはビニール袋を提げているのに、その姿は一枚の絵のように綺麗だと思った。空を見上げ月を眺める姿に視線は吸い寄せられる。蒼い月の光に小林さんは包まれていた。
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