あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
 私も自分の席に着くと仕事に入る。残された時間を無駄にしないように頑張って仕事をしたいと思った。研究室には何も話さないまま時間だけが過ぎる。昼が過ぎ、定時が過ぎ、それでも中垣先輩は殆ど話さない。そして、今日は七時過ぎに中垣先輩はフッと息を吐いた。それが合図かのようにさっきまでのキーボードを打つ手が止まる。


「終わるぞ」

「でも、まだ、七時ですよ。私はもう少ししようかと思います」


「明日にしろ。今日はもう終わりだ」


 勝手だと思った。自分の仕事の都合で私を振り回す。私には時間がないのに、もう少し仕事がしたいのに…研究室の責任者である中垣先輩の言葉には従わないといけない。



「でも…」

「終わりだ」


 それだけ言うと、中垣先輩は自分のパソコンの電源を落し、私のパソコンの前まで来ると中身を確認すると、勝手にパソコンの電源を落とした。


「俺も急ぐ」


 中垣先輩に追い立てられるように研究室を出ると、軽く手をあげてから中垣先輩は病院の方にさっさと歩いていく。中垣先輩のお祖母さんの具合が悪いのかと心配したけど、それがそうでもないと気付いたのは、少ししてからだった。ふと振り向くと、先輩の影がまだ見える。ゆっくり歩いているのが分かる。急いでいたならもう姿は見えないはず。まだ中垣先輩の姿を私は見ることが出来た。

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