あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
 電車は満員だった。少しの時間を我慢していると私は自分のマンションの最寄りの駅に着いた。吐き出されるように流れる人の波に揉まれながら、改札を出ると胸を撫で下ろす私がいる。


 そして、何処にも寄ることなく自分の部屋に戻ったのだった。


 鍵を開けて入ると私の部屋は今朝、小林さんと一緒に出て行ったままだった。会社に行く時は小林さんと一緒だったのに、帰りはいつもどおりの一人。いつもどおりなのに寂しいと思ってしまう。いつもの自分の部屋なのに、小林さんがいないだけでこんなにも寂しい。


 溜め息が静かに零れると、バッグの中の封筒が目に入る。辞令が出た今引き返すことは出来ないけど、こんな風に小林さんの居ない場所がこんなにも寂しい。この先フランスに行って私は大丈夫なのだろうか。


 留学を決めたことに後悔はしてないけど、不安はある。それが今の私の率直な心境だった。


 シャワーを浴び終わり寝るだけの状態になると、私はずっと小林さんのことを考えていた。本当なら辞令と一緒に渡された書類に記入もしないといけないのだけど、今日はそんな気分にならない。私は携帯を掴んだままソファに座り、深夜に掛けてのお笑い番組に視線を移す。真剣に見れば楽しいのかもしれないけど、全く頭の中に入ってこなかった。


 私が待ち詫びていた小林さんからの電話があったのは、日付が変わってすぐだった。急いで開くとそこには小林さんの名前があって、気持ちが高揚し、同時にキュッと胸が痛くなった。

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