あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
 今週の末から一緒に過ごすという約束はこの鍵で現実になる。夢のような話は現実で、手の中に握る銀の鍵の冷たさが私の熱でゆっくりと温められた。それよりも手の中の鍵よりも私の心が温められた。


「ありがとうございます。あの…私。辞令が出ました」


「うん。分かっている。でも、俺も美羽ちゃんに見せたいものがある」


 小林さんは持ってきたバッグから取り出したものは…『休暇申請書』だった。そしてその申請書には静岡支社の課長の決定印も貰ってあった。私がフランスに行く日までの一週間がその申請書には書かれている。


「美羽ちゃんがフランスに行くまではずっと俺と一緒に居てもらう。これは彼氏命令だからね。拒否権ないよ。暫くは残業も少しは増えるだろうけど、美羽ちゃんと一緒に過ごすためなら頑張るから美羽ちゃんも諦めて」


 小林さんの顔を見ることが出来ない。余りの嬉しさに涙で潤む。私が思う以上に小林さんは私のことを思ってくれていた。その思いが胸を苦しくさせる。好きだと思う気持ちが溢れ泣き出しそうになるのを、堪えるように私は呟くしか出来なかった。


「嬉しいです」

 そういうと、小林さんはもう一度私の身体をゆっくりと抱き寄せた。強く抱き締められながら私はそっと涙を零した。それは小林さんのシャツに吸い込まれていく。私が涙を零しているのに気付いているだろうけど、小林さんは何も言わずに抱き締めていてくれた。


「疲れてますよね。あの…。明日、仕事で…そろそろ寝ないと」

「美羽ちゃん」


 ふと名前を呼ばれて小林さんを見ると、私に注がれる視線の甘さにドキッとしてしまった。
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