あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
 中垣先輩は自分の席から立つと、バサッと着ている白衣を脱ぎ、無造作にそのまま机の上に置くと私の方をチラッと見てからドアの取っ手に手を掛けた。どこに行くのかと机に座ったまま見つめていると、中垣先輩は表情を変えずに低い声を響かせた。


「食事に行く。奢ってやる」


「は、はい」


 そうはいったものの、中垣先輩と一緒に食事というのは殆どなくて、研究室以外では何を話したらいいのだろう。いつも二人でいるにも関わらず、違う空間では何を話していいのだろうか?そんな思いで中垣先輩の後について歩いていくと先輩は全く迷うことなく一軒の店に入っていく。


 趣のあるドアを抜けるとそこにはあの時と変わらない空間があって、少し違うのは飾られている花が違うということだけ…。そこは前に高見主任と折戸さんと一緒に来たことのある店だった。お値段は吃驚するほど高価で、それに見合うだけの料理を出す。


「予約していた中垣です」


 まさかこの店とは思わなかった。確かに和食のお店で味も最高に美味しい。でも、ここを中垣先輩が知っているとは思わなかったので、驚くばかり。案内されたのはあの時とは別の座敷で、さらに緊張を増す。向かい合って座ると緊張してしまう。考えてみればこんな風に一緒に食事をするのは初めてかもしれない。


「でも、よくここを知ってましたね」


「ああ、前に社長と一緒に来たことがある。坂上が東京にいる時にな。お前がいつまでたっても店を決めないからここにした。文句は言うなよ」


「前に高見主任に連れてきてもらったことがあるので、美味しいのは知ってます。でも、高いですよ」

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