あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
 鍋の中に隠すお母さんというのも中々奇抜だと思ってしまう。でも、それくらい小林さんのことを分かっているんだと思う。自分の息子が家探しすることを前提に隠したのだとすると、一枚は上手のようだ。


「今でも、正月に実家に帰ると、その鍋が出ていて…。微妙な気分になる」


「そうなんですね。でも、そのくらい嬉しかったんでしょ」


「うん。俺の持っていたグローブは従兄弟のお下がりで自分のを買ってもらったのは初めてだったんだ。野球が好きで堪らなかったから、俺にとっては最高の贈り物だった。でも、一日で消えた」


 初めてのグローブなら仕方ないかもしれない。私を抱きしめるこの腕が愛しくて堪らない。


「大事にしたんですね」


「手が入らなくなるまでずっとそれを使ったよ。友達は新しいのをドンドン買うけど、俺はずっとそれを使っていた。俺の宝物だったから。固かった革も次第に俺の手に馴染んできて、ずっと使いたかったけど、さすがに入らなくなって…新しいのを買った。新しいのを買ってもそれは捨てられずに今も俺の部屋の押し入れにあるはず」


 少し身体を捩って後ろを向くと、そこには少年のような無邪気な表情をした小林さんがいた。初めて会った時から無邪気に笑うその顔が…私は好き…。
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