あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
 マンションの下には既にタクシーが停まっている。私と小林さんがスーツケースを持って降りてくると、見計らったかのようにタクシーの後部のトランクを開けてくれた。そして、スーツケースを慣れた手つきで格納してしまった。そして、後部座席に私と小林さんが座るとサラッとした声が響いた。


「駅まででよろしいですか?」


「はい」


 小林さんがそういうと、ドアは無機質な音を立てて閉まり、タクシーは動きだした。最寄りの駅ではなく空港に続く駅は少しの距離がある。閉じられた空間の中からそっと振り向くと、マンションが次第に小さくなり、角を曲がるとマンションは見えなくなってしまった。寂しく思いながら前を向くと、小林さんはそっと私の手に自分の手を重ねた。


 その温もりにまた泣きそうになった。


 自分で望んではいけないのに、ずっとこのまま一緒に居たい。離れたくない。その手の温もりを私はずっと感じていたい…そう思った。


 空港に着いたのはフランスへ出発する一時間前だった。小林さんはてきぱきと手続きを終わらせ、私にパスポートに挟んだ搭乗券を渡してくれる。荷物の手配も何もかもして貰った。


「ありがとうございます」

「うん。手続きが終わったからコーヒーでも飲みに行こう」


 私と小林さんが向かったのは前に折戸さんを見送りに来た時に入ったカフェだった。あの時はまたここに来ることになるとは思いもしなかったが、今、また二人で並んでコーヒーを飲んでいる。砂糖を多めに入れたコーヒーは少しだけ私の心を慰めてくれていた。
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